第11回 ルン・ジゥェ倶楽部レポート(2019年5月30日配信分)

ベトナムアートが火を噴く!

ルン・ジゥェの日本での個展が近づいてきました。7月中旬より、銀座において、2回目の個展が開催されます。今回の個展こそは、日本に来ると断言していたルン・ジゥェですが、89歳の高齢で現在の健康状態を鑑みるとだんだん弱気になってきているようで、5月のヤンゴン訪問では、息子さんから、今回の日本訪問も難しいかな?と弱気になっているというお話をお伺いし、やはりヤンゴンから日本は遠いなと改めて感じることになりました。

年初は、一緒にご飯を食べながらあれほど日本が楽しみだと言っていたのに、そのあと、頭痛や目眩に苦しんでいるようで、無理をしないほうが良いという判断に傾いているようです。

さて、5月末と言えばクリスティーズ香港のスプリングセール、5月最終週に香港のワンチャイにあるコンベンションセンターで開催されます。

今年のクリスティーズは、例年増加している欧米のオールドマスターからコンテンポラリーのビューイングが更に強化されていて、今年はロスチャイルドコレクションというロスチャイルド家の家に飾ってあったアート作品の数々が並んでいて、ご一緒した若きコレクターは、ロスチャイルドの陰謀とか世界征服とか、色々と都市伝説は聞いていたけど、本当にあるんですね」と妙に感心していたのが印象的でした。

明らかに欧米のオークションハウスは、今、中国の富裕層を含め、アジアの富裕層が、欧米の作品を本格的にコレクションし始めていることに、これからのアジア戦略の重要な位置付けにしているようです。

そのような中、クリスティーズは2008年以降、一貫してコツコツと、アジアのアート作品を紹介し続けています。21世紀は世界の工場としてアジアが大きく経済成長する重要な地域として、それぞれの国の有力な作家を継続的に取り上げて、市場形成を行っています。

もちろん、ミャンマーといえば2007年以来、クリスティーズは一貫してルン・ジゥェをその中心的な現存作家として出品し続けて、記録を残してきています。

そして、この2019年の春の陣は、ベトナムが火を吹きました。数年前からベトナムのLe Phoという2001年に亡くなった物故作家の作品を中心に、値段が急激な上昇を開始し始めました。お分かりのことと思いますが、ベトナムが中国に変わる世界の生産拠点として、多くの他国生企業が中国からベトナムに移し始め、ベトナム経済が大きな飛躍を見せ始めた頃からと一致します。オークション結果を見て見ましょう!

Lot 106 Le Pho 320万香港ドル(4480万円)
Lot 107 Le Pho 900万香港ドル(1億2600万円)
Lot 108 Nguyen Phan Chanh 280万香港ドル(3920万円)
Lot 109 To Ngoc Van 750万香港ドル(1億500万円)
Lot 110 Luong Xuan Nhi 380万香港ドル(5320万円)
(2019年クリスティーズ香港春季オークション結果より)

と、数千万円級は当たり前、1億超えも出てきています。上の金額は、落札価格だけの金額ですので、これらの金額に20-25%の手数料を加えた金額を落札者は払うことになります。

ミャンマーも毎月ヤンゴンに行く度に街の風景が変わります。開発はとどまるところを知りませんが、まだまだ、社会インフラがしっかり整備されているとは言い難い状況です。5月のヤンゴン訪問でも、ミーティング中に2時間程度の停電が二回もありました。

ミャンマーの人に言わせるとそれは計画停電だとのことですが、それでも真夏の35度を超えるヤンゴン市内で、停電してエアコンの効かなくなったミーティングルームで汗をダクダク流しながら、真っ暗な部屋に携帯のランプでミーティングを続ける様は、東京にはない風景です。

物価がまだまだ安いミャンマーが経済成長する日を夢見ながら、ミャンマーアートを楽しむというのも一興だと思います。

さて、今回のクリスティーズ香港では、ミャンマー作家は物故作家(亡くなった作家)を中心した組み立てになっていました。現存作家はルン・ジゥェのみの一点でした。ミャンマーのコンテンポラリーは前回までクリスティーズは何回か取り上げてきましたが、単価が50万円以下とクリスティーズの価格帯には見合わないと判断したのか今回は20世紀を代表する作家をセレクトしてきました。

そして、今回唯一のミャンマー現存作家の出品としては、ルン・ジゥェの2003年制作の64x40cmの小さな作品が出品されていました。日本では、68x68cmのシリーズが小さい作品として100万円程度の金額で紹介しているわけですので、今回のエスティメートは、8万香港ドル -10万香港ドル(112万円?140 万 円)と、強気な値付けです。図柄は、ルン・ジゥェには珍しい全裸の女性の作品、なかなか良い作品です。

東南アジアのセールは日曜日の朝10時からと一番人気のない時間帯ですが、今回はベトナム狙いなのか会場には100人以上に人が参加しています。ベトナムセールで大きな盛り上がりを見せ、タイの作家の作品に移るや、半分くらいの人が抜け、会場は50人程度になってしまいました。タイの次にミャンマーに移ります。

物故作家のセールが終わり、ルン・ジゥェの番になりました。いきなり、オークショニアが既に書面ビッドが入っていますからと7万香港ドルからスタートして、エスティメート下限手前の7万5千香港ドルで一息間があった後、前方に座っている中国系らしい太めの中年女性の手が上がりました。8万香港ドルから、あれよあれよと11万ドルにせり上がり、結局は書面ビッドの勝利で、会場の女性の手には入りませんでした。

11万香港ドル、落札された方は、これに25%の手数料を払うことになりますから、137万5千香港ドル、日本円で190万円近くになります。他のミャンマー作家の結果も見てみたいと思います。

Lot 142 U San Win (1908 ? 1979)  18万香港ドル(252万円, 手数料込315万円)
Lot 143 U Ngwe Gaing (1901 ? 1967)  19万香港ドル(266万円, 手数料込333万円)
Lot 142 U San Win (1908 ? 1979)  15万香港ドル(210万円, 手数料込263万円)
Lot 142 U Ba Kyi Win (1912 ? 2000) 6.5万香港ドル(91万円, 手数料込114万円)
Lot 142 U Lun Gywe (1930 ? )  11万香港ドル(154万円, 手数料込193万円)
Lot 142 U Kin Maung (1910 ? 1983) 不落札
(2019年クリスティーズ香港春季オークション結果より)

ベトナムとミャンマーのなんたる格差。経済成長を遂げた国と、これから経済成長を遂げる国とでは、アートの価格がこれほど異なるのです。

しかし、現代では、香港のクリスティーズで取り扱われ、きちんと価格がついて行くという事は、作家にとっても重要な記録となってきます。ほとんどの現存作家がオークションでは価格がつかない中、オークションで値段がつく作家の位置付けは大変重いものがあります。

クリスティーズ・サザビーズの香港にて、ミャンマーを代表する作家として継続的に出品され、落札され、記録に残ってきたミャンマーの国民的な作家のルン・ジゥェ。ミャンマーの経済発展とともに、将来は今回のベトナム作家の競りのようになることを夢見ながら香港をあとにすることとなりました。